2024 年 5 月 11 日の選挙により、一般社団法人日本保育学会の第 10 代会長に就任いたしました。また、大方美香副会長と大豆生田啓友副会長に支えていただけることになりました。私自身、秋田喜代美会長、汐見稔幸会長のもとで副会長を務めました。本学会は、保育の学会としては、日本では最も長い伝統があるので、会長に就任することは大変光栄なことです。同時に、今、身も心も引き締まる思いです。会員同士の「知」の交流がますます活性化し、会員同士の関係も深まるよう、会長として誠実に力を尽くしてまいります。
本学会は、初代倉橋惣三会長が、1948 年、おそらく当時はまだ戦後の混乱があったであろう時期に、世の復興に先駆けて、幼い子どもたちの健やかな発達と幸福のための保育を、実践者と研究者が対等な関係で高めていく重要性を認識し創設されました。この保育への強い思いは、本学会会報第 150 号記念号に、会報の発刊が始まった 1949 年の倉橋惣三会長の会報第 1 号の「保育学の本領」と題する巻頭言に再掲されています。当時、私は、広報委員長として学会事務局の奥に置かれた何気ない缶の箱の中から、手書きの文字でガリ版で印刷された、会報第 1 号を発見し、その時は心から驚きました。おそらく倉橋の自筆で書かれたこの文章は、年月を経て、判読困難となった文字もあったのですが、本学会創設への倉橋会長の強い意思が表れており、会員と共有すべきと考えました。さらに、150 号では、その当時第一線の研究者の方々に、この「保育学の本領」に対するお考えを寄稿していただきました。3 月に刷新された本学会のホームページの「アーカイブ」の「会報」のバックナンバーから、150 号をお読みいただき、本学会の原点を、「今」の視点から見つめ直していただければ幸いです。
本学会の目的は「当法人は、保育の研究を通して会員相互の交流と連携を図り、子どもたちの健やかな発達と幸福をめざし、保育界の進歩及び会員に共通する利益の向上に貢献することを目的とする。」と定款第 2 条に明記されています。2022 年 6 月 22 日に、こども基本法が、新たに制定され、2023 年 4 月 1 日より施行されました。研究者と実践者が、共に保育界の進歩に寄与する議論を深化させるプラットホームとしての機能を果たし、子どもたちの健やかな発達と幸福を目指すという本学会の目的は、新たに制定され、今注目されている子ども基本法の目的を先取りして、長年探求し続けてきたものです。この目的を、新たな時代に向け会員と共に再確認したいと思います。
さて、2025 年 5 月 10 日 11 日の 2 日間は、久しぶりに対面での大会開催を予定しております。場所は、長野県立大学です。ぜひ、5 月新緑の長野の地で、仲間と顔を合わせて心ゆくまで語り合う時間をもっていただけたらと考えています。詳細は、8 月の 1 号通信をご確認の上、対面ならではの大会に是非ご参加ください。
また、本学会に心を寄せてアドバイスをくださる税理士に出会い、以前から名目上存在した基本財産を定款に位置づけ、財政面からの持続可能性を担保する工夫をしつつ、必要な事業を、会員の皆様のご理解を得て展開しています。例えば、好評をいただいている、ブロック研修会や各委員会のシンポジウム等は、今後、より会員の方と共に議論が深められるよう考えていきます。また、本来は 1000 円ほどで購入しなければならない『保育学研究倫理ガイドブック 2023』を、全会員に無料配布いたしました。今後は、より重要性が増す研究倫理の問題を実際の研究や実践の場の問題として考える事業を展開したいと考えております。
ご存じのこととは思いますが、会員によって選出された理事・評議員、また、大会運営等にあたる方々は、すべて無償で学会の事業にご協力いただいております。これは、小川博久会長が提唱され、汐見会長、秋田会長と引き継がれ、現在はまさに、「会員と共に歩む、学会のために働く理事・評議員会」となりました。これは、会員お一人お一人の学会への思いと責任と努力に支えられてこそ持続できることです。
真に、子どもたちの未来を創造するための学会となるため、全会員の力が生き生きと結集できるよう、私は、微力ながら全力を尽くしてまいります。
2024年9月1日
一般社団法人 日本保育学会
会長 戸田雅美