論文執筆のための手引き書
1.何のために論文を書くのでしょうか
(1)すべての子どもたちの発達と幸福を支えていく保育学を構築するため
日本保育学会は、定款の第2条で定めているように、「子どもたちの健やかな発達と幸福をめざす」ことを目的として発展してきました。その基盤は、保育に関する実践や研究の成果を会員が相互に公表し研鑽することを通して、子どもたちの健やかな発達と幸福を支えていく学問としての保育学を構築していくことです。
そのために本学会の会員は、保育に関する様々な事柄や事象において、新たな見解やこれまでとは異なる解釈や知見が得られた時には、論文としてまとめてきました。
また日々の保育実践において、子どもたちの生活や保育環境、保育に関係する人々の連携や支援の在り方などについて、新たな工夫やより良い方法などが示唆された場合にも、それを論文としてまとめてきました。こうしてまとめられた論文は「保育学研究」に投稿され審査されて、保育学の構築に貢献し得る論文として評価されると「保育学研究」誌に掲載され会員に公表されてきています。
日本保育学会ではこうした努力を長年積み重ねることにより、すべての子どもたちの発達と幸福を支える質の高い保育実践と、その基盤となる学問分野としての保育学の構築をめざしてきたといえます。
(2)論文としてまとめ成果を広く会員や保育関係者に共有してもらうため
しかし保育研究や保育実践を論文としてまとめるためには、自分の研究や実践を振り返りその成果を他の人にわかってもらえるように整理して示す必要があります。自分の成果のどこがこれまでの研究や実践の成果と異なっているのか、またどこが新たな発見や見解なのか、どこにオリジナリティがあるのかなどについて、その根拠を具体的に検証し、論理的に説明することが求められてきます。
そこで、自分の取り組んでいる研究や実践の見直しなどの成果がある程度まとまったならば発表し、研究大会等で会員や関係者と交流しながらその知見や成果を吟味し検討することが必要となります。こうした場には自分と同じ領域の研究や実践に関心のある会員や関係者が集まるので、研究方法や研究内容の交流や研鑽ができますし、結果の整理や考察の在り方についての議論なども行うことができます。こうして研究
や実践のまとめと見直しを積み重ねていくことを通して、今取り組んでいる研究課題への取り組みの質をあげていくことがまずは求められてきます。
こうした積み重ねにより、研究目的が明確となり方法や内容についての検討が十分になされ、オリジナリティのある論文としてまとまったならば、「保育学研究」誌に投稿することができます。そして査読され保育学の構築に貢献しうる成果が得られている論文であると評価されたならば「保育学研究」誌に採択され公表されます。
会員や関係者がこうして掲載された論文を読むことによって、各論文の持つ意味と価値が広く共有されていき、それが保育において子どもの発達や幸福を支えることにもつながっていくのです。また、こうして保育の研究や実践に関する論文を蓄積していくことを通して、本学会としてはより質の高い保育学を再構築していくことができるのです。