本研究の目的は,1 歳児保育の実施運営の質と子どものトラブルとの関連を明らかにすることである。Z 県下の全認可保育所を対象に,実施運営の質と保育スケジュールについて質問紙調査を行った。
保育スケジュールの分析では朝夕の登降園時と10 時からの活動時にトラブル報告数が多く,関連する実施運営の質として,自由遊びでトラブルが多いこと,4 月は保育士一人当たりの子どもの人数が増える時間にトラブルが増えることがわかった。また,排泄介助時にトラブルが多いことが明らかになった。年度前半は保育士の出退勤時間帯と子どもの登降園時間帯のピークをずらすこと,保育士配置を改善することで主体的活動や生活面での丁寧な援助を可能にすることが重要である。
近年,我が国では保育の量的拡大を目指して幼児教育・保育分野の市場化を促すような施策が相次 いでおり,いくつかの自治体では公立保育所を民営化する動きが加速している。こうした中,より低コストで保育を行う事業者に保育所の運営が委託されるケースが増えつつある。こうした事業者の変 更は,保育の質,あるいは慣れ親しんだ保育者から引き離される子どもたちに,どのような影響をもたらすのだろうか。本研究では,株式会社に運営を委託されたある院内保育所の事例を取り上げ,そこで生じた保育の質の低下が子どもたちの情緒的安定を脅かすまでに至った経緯を明らかにする。その上で,保育の質を保つためには,委託契約期間の延長,最低委託額の取り決め,新旧事業者の義務などの明確化,保育士の給与の改善などが必要であるという結論を導いた。
本稿の目的は,日本の保育士不足に対する賃金の影響を,近年の保育を取り巻く日本の政策動向や保育士の賃金に関する欧米の研究成果を踏まえて検討することである。近年,日本では,幼保一体化が進められており,保育士資格と幼稚園教諭免許の相互互換的性質が強まっている。分析結果から,保育士と幼稚園教諭の間に賃金格差があり,幼保一体化により保育人材が幼稚園に流れる可能性を指摘した。さらに,保育士の有資格者の学歴は,過去 30 年で大幅に上昇しているが,他の専門職種と比較すると賃金水準は低いことも明らかとなった。現在,保育士の処遇改善が進められているが,他職種との賃金格差や資格取得にかかる機会費用を十分に考慮して議論を進める必要がある。保育師の相対的な賃金の低さが保育の質に及ぼす影響についての研究蓄積も今後の課題である。
本研究では,保育者からみた心理専門職との協働に対する認識を明らかにすることを目的とする。経
験年数の異なる 6 名の保育士に対しインタビュー調査を実施し,SCAT を用いて分析した。
分析の結果,経験年数ごとに心理専門職に対する認識に違いがみられた。新任の時には心理専門職 を「先生」として捉えていたが,経験を重ねると密な関わりをするようになっていた。またベテラン保
育者は,心理専門職の見方を取り入れて,ある程度同じような見方ができるようになっていた。以上の 結果に基づき,経験年数による変化を示し,よりよい協働のあり方について考察を加えた。
本研究は,初任保育士が,保護者との関係をどのように構築していくか,その変容プロセスを保育士
の語りから検討することを目的とする。
対象は私立保育所に勤務する保育士2名,いずれも経験1年目の初任保育士である。M-GTA を用いてデータを分析し,初任保育士が捉える保護者との関係性の変容過程を検討し,以下の考察を得た。
1)保護者との関係に関する初任保育士の語りを,①どう話しかけて良いかわからない時期,②返答の
仕方がわからない時期,③双方向の会話が成り立つ時期の3つの時期に分けることができた。2)他の 保育士の存在は,保護者との関わりを支援してくれる存在でありながら,一方で,初任保育士に未熟感
や不甲斐なさを感じさせる存在でもあった。3)担当クラスの子どもの年齢に応じて,保育士の保護者 に対する語りの変容プロセスには違いがあった。