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56巻2号

【56巻2号】
表題
東京府女子師範学校附属学校園における遊戯的学習の実践と幼小接続に関する一考察―第一部(幼稚園・尋常小学校一年)の実践的展開に着目して―(自由論文)
著者
清水 道代
巻号・頁・年月
56巻2号, 6-17, 2018.8.
要旨
本研究は,東京府女子師範学校附属学校園の遊戯的学習の実践に着目し,大正自由教育における遊戯的学習の位置づけと「第一部(幼稚園及び尋常一年)」の実践的展開の特徴を明らかにした。その結果,遊戯的学習の実践における第一部は,幼稚園も尋常一年も同様のテーマを置き,遊びや生活そのものが教材となり,子ども自身の興味関心から一人一人の成長を支えていく教育であった。遊戯と学習を一元的に捉えながら小学校生活全体を構想した遊戯的学習の第一部は,その後に続く基礎学習の時代,自学自習の時代の重要な基盤として位置づけられており,小学校教育の革新によって幼児期の教育との接続関係も変わりうることが示唆された。
キー ワード:東京府女子師範学校,遊戯的学習,幼小接続,遊戯と学習の一元化

 

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【56巻2号】
表題
カナダのオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州における全日制幼稚園の政策過程―構成主義的政策過程論に基づく分析―(自由論文)
著者
松井 剛太
巻号・頁・年月
56巻2号, 18-29, 2018.8.
要旨
本研究の目的は,カナダのオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州における全日制幼稚園の政策過程を分析することであった。理論枠組みには,構成主義的政策過程論を用いた。その結果,オンタリオ州とブリティッシュコロンビア州のいずれも,政策提案,幼児期の学びに関するガイドラインの作成,全日制幼稚園に関する最終提言,政策決定という過程で全日制幼稚園の導入がなされていた。両州ともこの過程を通して,幼児教育の教師や州民に向けて,全日制幼稚園に関する社会的潮流を拡大したことが示唆された。さらに,オンタリオ州,ブリティッシュコロンビア州とも州最大の大学であるトロント大学,ブリティッシュコロンビア大学が政策過程に深く影響を及ぼしていたことがわかった。最後に,オンタリオ州,ブリティッシュコロンビア州の政策過程が,カナダ全域における全日制幼稚園導入の動向に関わっていた。
キー ワード:カナダ,全日制幼稚園,幼児教育・保育,政策過程

 

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【56巻2号】
表題
発達に伴う「指さし行動」の質的変化―「一人指さし行動」から「伝達的指さし行動」へ―(自由論文)
著者
宮津  寿美香
巻号・頁・年月
56巻2号, 30-38, 2018.8.
要旨
本研究は指さし行動を獲得して間もない0 歳後期から1 歳前期の子どもの指さし行動に注目をした。対象児は 0 歳代の 9 名(男児 5 名,女児 4 名)である。指さし行動には,コミュニケーション機能が付随していることが特徴であるが,対象児の行う指さし行動には「自分自身のために行う」ような「ひとりごと」のような指さし行動がみられ,そのような指さし行動を本研究では「一人指さし行動」と定義した。分析には,大きく以下の 3 つの視点から検討をした。「指さし行動と日齢との関係」,「指さし行動と身体の発達との関係」,「指さし行動と言語発達との関係」である。その結果,対象児の日齢,身体発達,言語発達により,「一人指さし行動」とコミュニケーション機能をもつ「伝達的指さし」の頻度に違いがみられた。また,「一人指さし行動」を質の違いから 4 カテゴリーに分類したところ
(ア.状態,イ.目的,ウ.理解 / 命名,エ.その他),1 歳半頃までは,自分の目的や欲求物について指さす「イ.目的」の割合が高かったが,それ以降では,人の動きや状態を指さす「ア.状態」の割合が高くなることがわかった。
キー ワード:一人指さし行動,伝達的指さし行動,乳幼児の発達

 

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【56巻2号】
表題
園庭遊具の遊びの価値と安全性を高める方法についての実証的研究―ハザードとリスクの概念を中心に―(自由論文)
著者
野田 舞・山田 真紀
巻号・頁・年月
56巻2号, 39-50, 2018.8.
要旨
本研究は,保育施設のリスクマネジメントのうち,園庭遊具に焦点をあてて,重篤な怪我のリスクを減らして,遊びの価値を最大限に発揮させる,「子どもと遊具の関わり」と「保育者の援助のあり方」を,参与観察とインタビュー調査から明らかにするものである。概念整理では,日本の遊具に関する安全基準におけるハザードとリスクの概念が,世界基準のそれと異なることを指摘し,世界基準の概念定義を用いること,すなわち,ハザードは「遊具が内在する危険性」,リスクは「ハザードから生ずるおそれのある怪我の重篤度とその発生頻度」ととらえること。そして,遊具のハザードを「遊具の本質として内在するハザード」「取り除くべきハザード」の縦軸と「子ども認知可能」「子ども認知不可能」の横軸をクロスさせた4つの象限に分けて分類することの有用性について論じた。
キー ワード:保育施設のリスクマネジメント,園庭遊具,ハザードとリスク,チャレンジと安全の両立,参与観察とインタビュー調査

 

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【56巻2号】
表題
異年齢保育における幼児の乳児に対する養育的行動(自由論文)
著者
北田 沙也加
巻号・頁・年月
56巻2号, 51-62, 2018.8.
要旨
0 ~ 5 歳児が共に過ごす保育現場において,2 ~ 5 歳児の乳児,同輩・幼児,大人に対する行動を観察し,幼児期における乳児に対する特徴的な養育的行動を明らかにし,その生起文脈・要因について検討した。乳児に対する行動の中でも,「接触・愛撫」,「分与・譲渡」,「大人を介する行動」の 3
つが相対的に乳児に対して多く行われていた。この 3 つが明白な養育的行動である「世話・援助」に加えて,「幼児や大人に対してはあまり行わず,乳児に対して行う特徴的な養育的行動」であることが示された。また,幼児は自ら積極的に乳児に関わったり,遊びの中で乳児に接したりする中で,養育的行動を行うことが多かった。幼児の乳児に対する養育的行動の生起には,乳児への関心,乳児に関わりたいという気持ちや世話したいという世話欲求が影響している可能性が示唆された。
キー ワード:養育的行動,世話行動,幼児期,異年齢保育

 

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【56巻2号】
表題
3〜5 歳児の言語的やりとりから捉える規範意識―根拠を明示しない規範に着目して―(自由論文)
著者
辻谷 真知子
巻号・頁・年月
56巻2号, 63-74, 2018.8.
要旨
本研究では,幼児独自の規範意識について,大人の望ましさとは異なる視点から明らかにするため,保育所 3 歳児クラスの卒園までの継続的な観察から,三つの視点で事例を抽出し分析した。第一に,幼児が規範を根拠なく示す言動,第二に,根拠を明示しない規範の中でも特に言葉遣いについての規範を示す言動,第三に,関連する保育者の援助である。その結果,幼児は相手を規範に従わせる目的だけでなく,主張や感情などを伝える際にも規範を方略的に用いていることが示唆された。また,根拠のない規範であっても,相手が従うことにより幼児間で共有されうることが明らかになった。さらに,保育者は幼児のやりとりに応じて援助を行っているが,その中で幼児が特定の言葉について,使うべきでないという規範を捉える可能性も示唆された。今後,幼児間の仲間関係や保育者のねらいも踏まえた詳細な検討が必要である。
キー ワード:幼児の視点,規範意識

 

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【56巻2号】
表題
幼児の遊びにおける音楽的表現の展開(自由論文)
著者
乙部 はるひ
巻号・頁・年月
56巻2号, 75-86, 2018.8.
要旨
本研究では,幼児の音を介した表現が遊びの中でどのように展開していくのかを明らかにすることを目的とした。幼稚園の 4 歳児クラスにおいて,1 年間参与観察した。その結果,環境と相互作用することにより芽生えた音を介した表現は,幼児が音を試行錯誤してつくることを通し,アイドルごっこの中で文化としての音楽的表現へと展開していくことが明らかになった。この展開を支えたものは,音への気づきを促す保育者の日常的な援助であった。
キー ワード:音楽的表現,4 歳児,環境との相互作用,アイドルごっこ,保育者の援助

 

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【56巻2号】
表題
来日第二世代保育者におけるアイデンティティの揺れとキャリア形成のナラティブ― TEM による描出と考察―(自由論文)
著者
林 恵・佐々木由美子・卜田真一郎・戸田 有一
巻号・頁・年月
56巻2号, 87-98, 2018.8.
要旨
本研究の目的は,来日第二世代保育者(子どもとしての来日経験をもつ保育者)のキャリア形成の過程の描出である。TEM を用いて 3 名の保育者(南米からの日系移民)の語りを可視化することで,アイデンティティの揺れを含むキャリア形成の過程を提示した。これにより,「母国語が話せる」「類似の背景をもつ移民の子たちへの共感的理解ができる」ことの,役割意識への影響が描出された。そして,諸言語への自信の程度が,キャリア形成に影響した可能性がある。また,来日第二世代保育者への優れた通訳者としての期待が,大きな負担感に繫がっていた。したがって,このような難しさを理解することが,来日第二世代保育者を支えることになろう。
キー ワード:保育者,日系移民,キャリア形成,ナラティブ,TEM(複線径路等至性モデリング)

 

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【56巻2号】
表題
育児ソーシャル・サポートにおける保育施設の可能性―幼稚園児を持つ親の意識を手がかりとして―(自由論文)
著者
柏 まり・佐藤 和順
巻号・頁・年月
56巻2号, 99-110, 2018.8.
要旨
本研究の目的は,子育て家庭と社会とを繫ぐ保育施設の役割を明らかにすることである。具体的には,第一に,柏・岩佐・佐藤(2017)が開発した「保育施設を拠点とした育児ソーシャル・サポート尺度」を用いて,子どもの育ちに影響を与える 3 つの観点に着目し,育児ソーシャル・サポートとの
関連について明らかにする。子どもの育ちに影響を与える 3 つの観点は,①育児感情,②親子関係,
③夫婦関係,である。第二に,保育施設の中でも幼稚園児を持つ親に着目し,支援ニーズの特徴を把握する。研究結果から得られた知見は,次のとおりである。幼稚園児を持つ親の育児ソーシャル・サポートは,親の育児感情を健全化し,親子や夫婦関係といった家族関係を良好に保つための関係性が認められた。子育てを社会全体でサポートする上で,保育施設は子育てにおける夫婦関係の大切さを伝えると共に,家族関係の媒介となる支援を模索することが求められる。
キー ワード:子育て支援,保育施設,育児ソーシャル・サポート

 

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【56巻2号】
表題
地域子育て支援拠点における利用者の心情変容プロセスを支える支援に関する研究―複線径路・等至性モデル分析による支援の検討―(自由論文)
著者
上田 よう子
巻号・頁・年月
56巻2号, 111-119, 2018.8.
要旨
本研究の目的は,地域子育て支援拠点の利用者の心情の変容を分析し,子育てによる親の孤立を防ぐための支援のあり方を明らかにすることである。拠点によく訪れた5 人の利用者にインタビューし,複線径路・等至性モデル(TEM)によって質的分析を行った。その結果,親の複雑な心情の変容が 4つの過程に分類された。本研究では,利用者が他の人の言葉やかかわりに非常に敏感であることが明らかになった。利用者の緊張と不安は表面上見ることが難しいため,拠点での支援では,「把握」「アプローチ」「創意工夫」「橋渡し」の必要性を提案した。
キー ワード:心情の変容,地域子育て支援拠点,複線径路・等至性モデル,言葉,利用者

 

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