【54巻2号】
表題 倉橋惣三の児童保護にみられる幼保一元化論 ―子どもの尊重と発達段階の視点から―
(自由論文)
著者 小山 優子
巻号・頁・年月 54巻2号, 104-115, 2016.12.
要旨 本稿は,倉橋惣三の児童保護論から幼保一元化の考え方と幼児教育制度への関与を明らかにするものである。倉橋は,3・4 歳以上児は幼稚園・保育所に限らず文部省のもとで一元化し,等しく幼児教育が受けられることが望ましいが,3 歳未満児保育・乳児保育は衛生育児上の問題が生じるため厚生省で行われるべきという実現可能な制度を提案した。ここには,(1)子どもの尊厳を尊重するという思いからすべての子どもに等しく幼児教育が行われること,すなわち幼稚園と保育所の保育内容の同質化が望ましい,(2)保育者の職能や設備が異なるため,子どもの年齢・発達段階の観点から施設や制度を分離することが適切である,(3)幼稚園も社会の要請に応じて社会的児童保護の機能を担う必要性がある,という倉橋の幼保一元化の思想が含まれていた。
キーワード:幼保一元化 児童保護 子どもの尊厳 発達段階 保育内容
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表題 昼間保育事業の先駆者・生江孝之の再評価 ―神戸市職員時代に焦点をあてて―(自由論文)
著者 中根 真
巻号・頁・年月 54巻2号, 116-125, 2016.12.
要旨 本稿の目的は,昼間保育事業の先駆者・生江孝之の神戸市職員時代に焦点をあてて再評価する
ことである。
まず,神戸市婦人奉公会発足の経緯,児童保管所の運営について要約し,生江は当初,保育事業のために神戸市に採用されたのではなく,救済事業の企画・立案者として採用されたことを明らかにしている。加えて,生江の保育事業構想は,市長と生江の採用交渉を行った留岡幸助によって鼓舞されたことを明らかにしている。すなわち,非行予防は彼の保育事業の主要目的であった。
本稿は,今日的にも非行予防が保育事業の役割の 1 つとして認識できると結論づけている。
キーワード: 生江孝之 留岡幸助 坪野平太郎 出征軍人児童保管所 非行予防
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表題 ドイツにおける幼児期の学びのプロセスの質をめぐる議論 (自由論文)
著者 中西 さやか
巻号・頁・年月 54巻2号, 126-134, 2016.12.
要旨 本論文の目的は,学力問題を背景として改革を迫られているドイツの幼児教育において,幼児
期の学びのプロセスの質をめぐってどのような議論が行われているのかを明らかにすることである。方法としては,コンピテンシー志向の幼児教育カリキュラムの改革動向と,それに対する批判的立場から展開されている人間形成アプローチに焦点を当てた検討を行う。
検討の結果,①コンピテンシーモデルにおいては,幼児期に求められる能力のモデル化が目指されていること,②人間形成アプローチにおいては,個々の子どもの主観的な学びの方法に着目し,多様な学びのプロセスを描くことによって,幼児期の教育的課題にアプローチがなされていることが明らかとなった。
キーワード:学び 幼児教育 ドイツ 人間形成 コンピテンシー
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表題 幼稚園 3 歳児の対人葛藤場面における介入行為と状況変化 (自由論文)
著者 松原 未季・本山 方子
巻号・頁・年月 54巻2号, 135-146, 2016.12.
要旨 本論文は,幼稚園 3 歳児は他児の対人葛藤場面において,どのような介入行為をとるのか,そして,その介入によって,葛藤場面の状況がいかに変化するのかということを,フィールド観察を通して明らかにした。
介入行為については 10 種類が抽出され,年度の後半は前半よりも介入が増加した。〈阻害〉を除く9 種類の行為では,要解決の事態として何かしらの認識が示され,葛藤状況の変化と関連性が見られた。例えば,〈注視〉,〈声掛け〉,〈提案〉,〈抑制〉は葛藤場面の状況を変化させにくかった。〈教師への伝達〉と〈代弁〉は葛藤場面の状況を間接的な関与によって変化させた。〈注意〉,〈加勢〉,〈仲裁〉は葛藤場面の状況を直接的な関与によって変化させた。3 歳児においては,教師の援助を受けながら,他児の葛藤場面に対して要解決の事態として認識し,その対処に参加し,葛藤場面の状況を変化させる可能性を十分に有していることが示唆された。
キーワード:対人葛藤 介入 幼稚園 3 歳児 状況変化
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表題 協同的な活動としての「劇づくり」における対話 ―幼稚園 5 歳児クラスの劇「エルマーのぼ
うけん」の事例的検討― (自由論文)
著者 利根川 彰博
巻号・頁・年月 54巻2号, 147-158, 2016.12.
要旨 本研究は,幼稚園5歳児クラスで取り組まれた,9名のチームによる協同的な活動としての劇づくりを分析し,劇づくりの過程を描き出し,対話という視点から検討することを目的とした。エピソードの分析の結果,幼児たちは演ずることから気づく互いのイメージのズレを,対話によって摺り合わせ,具体的な表現方法や行動を発見していくことが示された。また,その一方で,何を表現するのかという内容の明確化と,チームとして目指すものの共有化が進行していることが明らかとなった。また,「目指すもの」とは「本物らしさ」であることが確かめられた。
キーワード: 5歳児クラス 劇づくり 協同的な活動 対話 本物らしさ
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表題 応答的・相互主体的に織りなす保育の可能性 ―障害児デイサービスの事例における「葛藤」
の考察を通して― (自由論文)
著者 和田 幸子
巻号・頁・年月 54巻2号, 159-168, 2016.12.
要旨 本稿は,筆者が保育実践者の立場で経験した障害児保育における女児 F の事例を記述し考察し
たものである。まず,F の思いを推察できず葛藤したことやいかに気持ちを読みほぐしたかをたどる。本稿の目的は,障害児保育において応答的・相互主体的に織りなす保育の実現の可能性を提示することである。
筆者は F の育ちを願い,関わり続けた。根気よく関わり続けたら望む変容があると考えていた
のだが,複数の子どもたちのいる保育の場の充実こそが個々の子どもの成長支援につながることに気づいた。このような保育の場で葛藤を経験しながら,応答的・相互主体的な保育が実現していくことがわかった。
キーワード:障害児保育実践 葛藤 応答的 相互主体的
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表題 初任保育者が子どもとわかり合おうとする関係構築プロセス (自由論文)
著者 上村 晶
巻号・頁・年月 54巻2号, 169-180, 2016.12.
要旨 本研究の目的は,初任保育者の子ども理解に関する語りを通じて,初任保育者と子どもが互いにわかり合おうとする関係を構築していくプロセスを明らかにすると同時に,その転機と要因を解明することである。2013 年 5 月から 2014 年 3 月まで月 1 回の頻度で,初任保育者のコウイチ先生に対してタイキ(4 歳男児)に着目した語りをインタビューした結果,関係構築プロセスは,相互反発期・混乱期・停滞期・葛藤期・受容的理解期の 5 期に分類された。また,関係を構築していく際には,初任保育者の過去体験に基づく価値観や感情制御の困難さに影響を受けやすいことや,子どもの思いをわかりたいと切望する意思が転機になることが示唆された。
キーワード:子ども理解 関係構築プロセス 初任保育者 語り
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表題 親のアタッチメントスタイルと養育行動が子どもの行動特性に与える影響 (自由論文)
著者 小西 優里絵
巻号・頁・年月 54巻2号, 181-192, 2016.12.
要旨 本研究の目的は, 親のアタッチメントスタイルと養育行動が子どもの行動特性に与える影響に
ついて検討することであった。
2 ~ 3 歳児を持つ父母を対象に, 彼らのアタッチメントスタイル, 子どもの否定的感情への対
応, 子どもの行動特性に関する質問紙調査を実施した。
その結果, 以下の 3 点が明らかになった。第 1 に, 親の「見捨てられ不安」と否定的な反応との正の関連, 子どもの問題行動との正の関連, 子どもの社会的行動との負の関連が示された。親の「見捨てられ不安」の高さが, 養育関係において重要であることがわかった。第 2 に,「見捨てられ不安」の高い親は, 子どもの否定的感情に対して矮小化する反応をとりやすいことがわかった。第 3 に, 親の矮小化反応は, 子どもの依存分離の問題傾向に正の影響を示し, 協調性に負の影響を示すことがわかった。
キーワード:アタッチメントスタイル 子どもの否定的感情への反応 子どもの問題行動 子どもの社会的行動
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表題 臨床美術による表現活動が児童養護施設入所児童に与える効果について(自由論文)
著者 保坂 遊・音山 若穂
巻号・頁・年月 54巻2号, 193-204, 2016.12.
要旨 本研究では,児童養護施設の児童に対する心理的・行動的支援の一環として臨床美術による介
入を行い,その実践を通して,児童の行動や情緒に肯定的な変化が認められるか否かについて検証することを目的とした。
施設に入所する 32 名の児童を対象として,介入群と非介入群とに分け,介入群には計 8 回か
らなる臨床美術のセッションを行った。介入前後の CBCL を比較した結果では,介入群において CBCL 総得点をはじめ,内向尺度および攻撃的行動尺度に肯定的な変化が認められた。また,支援員や教諭の報告にも,介入後に肯定的な変化が認められる児童が含まれていることが示された。
キーワード: 臨床美術 児童養護施設 介入研究 CBCL(子どもの行動チェックリスト)
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