【54巻1号】
表題 保育要領の形成過程に関する研究 (自由論文)
著者 加藤 繁美
巻号・頁・年月 54巻1号, 6-17, 2016.8.
要旨 本研究は, 日本で最初の「保育内容の基準書」として刊行された保育要領の形成過程を明らかにすることを目的にしたものである。これまでこのテーマで行われた研究は, 当事者の回想を基に展開されたものがほとんどで, 歴史的資料に基づいた研究が行われてこなかった。本研究はこれを CI&E (Civil Information and Education Section: 民間情報教育局) カンファレンス・レポートを使って明らかにしたものである。 研究の結果, 単なる「国家基準」としてではなく, 「学術的な教育書」として保育要領が作成されていく全体像を明らかにすることができた。そして保育要領制定の重要なポイントが, 「学術的な教育書」として作り上げた保育要領を, 保育実践の「国家基準」として機能させようとした事実の中にあることを明らかにした。
キーワード:保育要領 占領下日本 民権情報教育局 カンファレンス・レポート ヘレン・ヘファナン
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表題 20世紀初頭イギリスにおけるマクミランの保育学校の特質と意義に関する研究 (自由論文)
著者 中嶋 一恵
巻号・頁・年月 54巻1号, 18-29, 2016.8.
要旨 本論文は, 20世紀初頭イギリスにおいて開設されたマクミランの保育学校の特質と意義を明らかにすることを目的とするものである。本保育学校では, 貧困家庭の子どもの健康と発達を支えるために, 養育と保護者教育を行った。その結果, 子どもの健康改善と総合的な発達, および保護者の子育てに対する責任意識の向上がみられた。この取り組みからその意義を考察すると, ①学校において養育を重視したこと, ②子育て支援を「親育て」の視点から行ったこと, ③保育学校を貧困対策に活用したことがあげられる。これらは, わが国の保育に対して, 保育者の保育力の向上と待遇改善, 保護者教育, 保育施設への財政援助などといった課題を提起している。
キーワード: 保育学校 マーガレット・マクミラン 養育 子どもの貧困 子育て支援
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表題 津守眞の保育思想における省察 ―子ども達との出会いに立ち返って―(自由論文)
著者 西 隆太朗
巻号・頁・年月 54巻1号, 30∸41, 2016.8.
要旨 省察は,津守眞の思想の中でも中心的な概念である。近年保育の質への注目が高まる中で,この概念への言及が増えているが,その多くは反省・記録・話し合いの外的・形式的側面を扱うものとなっている。これに対して本研究は,形式を超える内的過程を含む津守の思想を,その理論的側面のみならず実践思想としての側面から,彼の事例研究を含めて検討し,明らかにするものである。省察の内的過程を特徴づけるものとして,津守の論述と事例の検討により,(1) 行動を表現として見る,(2) コミットメント(保育者の主体的・全人的関与),(3) インキュベーション(孵化)の過程,(4) 子どもとの相互的関係が見出された。さらに省察における主観的解釈の問題について,子どもたちとの出会いに立ち返り,事例を読み解く方法論と実践知を培う必要性が示された。
キーワード:省察 津守眞の保育思想 内的過程 コミットメント 解釈の方法論と実践知
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表題 日々の保育における担任保育者の保育体験 ─保育者の主観的体験に注目して─(自由論文)
著者 原口 喜充
巻号・頁・年月 54巻1号, 42-53, 2016.8.
要旨 本研究では, 日々の保育・業務における保育者の主観的な体験を明らかにすることを目的とする。比較的経験年数の少ない 8 名の幼稚園教諭に対しインタビュー調査を実施し, 得られたデータは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。 分析の結果, 保育者は【「楽しい」が一致した保育体験】と【保育者だけが必死な保育体験】という, 2 つの対照的な保育体験を循環的に経験していた。また, 保育者の主観的体験の背景には【保育者としての想い】があり, この想いが保育者の体験に肯定的/否定的な影響を及ぼしていることが明らかとなった。保育者のこれらの心理的なプロセスを理解した上で, 園長や他の保育者, 保護者など保育者と関わる全ての人たちが, 保育者に対しあたたかいまなざしを向ける必要が示唆された。
キーワード: 保育者 主観的体験 循環的プロセス 保育者支援
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表題 保育士の抑うつに関連する要因の検討 ─経験年数, 首尾一貫感覚, 対処スキルに着目して─
(自由論文)
著者 加藤 由美・安藤 美華代
巻号・頁・年月 54巻1号, 54-66, 2016.8.
要旨 本研究の目的は, 保育士の経験年数や勤務状況, 首尾一貫感覚, 対処スキルと抑うつの関連を検討することである。法人立保育園の保育士 292 名を対象として 2012 年に実施した自記式調査 (“CES-D Scale”, “Kiss-18”, “TAC-24”, “SOC 3-UTHS”) を分析した。その結果, 常勤か非常勤か, 1 人担任か複数担任かといった保育士の勤務状況と抑うつとの関連は見られなかった。相関の結果に基づいて, パス解析を行った結果, 経験年数と首尾一貫感覚は, 「対応のスキル」や「肯定的解釈と回避的思考」といった対処スキルを介して, 抑うつに関連することが明らかとなった。
キーワード: 保育士 抑うつ 首尾一貫感覚 対処スキル 経験年数
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表題 未診断の発達障害の傾向がある子どもの保育や保護者支援と保育士の心理的負担との関係
─バーンアウト尺度を用いた質問紙調査より─(自由論文)
著者 木曽 陽子
巻号・頁・年月 54巻1号, 67-78, 2016.8.
要旨 本研究の目的は,未診断の発達障害の傾向がある子どもの保育において, 保育士の心理的負担につながる要因を明らかにすることである。84 か所の保育所 (園) に調査票を郵送し, 342 名分のデータを分析に用いた。まず、子どもの行動特徴, 保護者支援の困難さ, 園内外の連携のそれぞれを測る尺度を作成した。これらの尺度とバーンアウト尺度を用いて重回帰分析を行った結果, 未診断の発達障害の傾向がある子どもの保護者に対する「問題伝達の困難性」が「情緒的消耗感」「脱人格化」と正の関係を示した。一方,子どもの行動特徴とバーンアウト尺度の関係は見られなかった。つまり, 未診断の発達障害の傾向がある子どもの対応は保育士の心理的負担にはならず, むしろ保護者へ子どもの課題を伝えることが心理的負担になると考えられる。
キーワード: 未診断の発達障害の傾向がある子ども 保育士 心理的負担 保護者支援 量的研究
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