【53巻2号】
表題 日常の保育実践における保育者の子ども理解の特質—保育者が子どもを解釈・意味づけする省察の分析を通じて— (自由論文)
著者 池田竜介
巻号・頁・年月 53巻2号, 116-126, 2015.12.
要旨 本稿の目的は,保育者が日常的に個々の子どもを解釈・意味づけするプロセスに着目し,保育者による子ども理解の特質を探究することである。その際,2名の保育者による保育の省察を分析と考察の対象とした。
本稿の結果として,まず保育者が,成長と関連づけて子どもを理解しようとする志向性を有していることがわかった。次に,保育者が子どもに対して抱いている課題意識が,その子を理解する際のパースペクティブとして機能していることが明らかになった。そして,子どもを理解することが保育者の成長を促すということが示唆されており,そのような相互成長的な理解の様式が保育者による子ども理解の特質であると位置づけることができる。
キーワード:子ども理解 相互成長的な理解 省察 保育者 難しい子ども
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表題 保育実践場面における保育者の「行為の中の省察」 —保育者の想起に基づいて— (自由論文)
著者 畠山寛
巻号・頁・年月 53巻2号, 127-137, 2015.12.
要旨 本研究の目的は,保育者が子どもに対応する際の「行為の中の省察」の具体的な内容及び過程について明らかにすることである。幼稚園教諭5名に対して半構造化面接を実施した。面接で得られた言語データは,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(戈木クレイグヒル版)を用いて分析した。その結果,子どもに対応する際の保育者の「行為の中の省察」には,「支援に関する判断」の段階,「支援の結果に関する評価」の段階,そして,「再支援の必要性に関する判断と実行」の段階の3つの段階を含む一連の過程があることが示された。また,それぞれの段階で判断や評価の際に考慮される内容は「子どものニーズや状態」であることも明らかにされた。
キーワード:保育者の子どもへの対応 行為の中の省察, 支援に関する判断, 支援の結果に関する判断 再支援の必要性に関する判断と実行
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表題 幼児と中学生との“ふれ合い体験活動”における幼児の経験 —幼児は園生活のどのような場面で中学生とふれ合っているのか— (自由論文)
著者 天野美和子
巻号・頁・年月 53巻2号, 138-150, 2015.12.
要旨 本研究では,幼稚園と保育所で実施された幼児と中学生との“ふれ合い体験活動”を観察し,幼児が普段接する機会の少ない年齢差のある中学生と,園生活のどのような場面でふれ合い,どのような経験をしているのかを検討することを目的とする。幼稚園や保育所の生活を「自由な活動の場面」「一斉的な活動の場面」「基本的生活の場面」「場面と場面の間」の4つの場面から分析したところ,各場面において中学生は幼児にとって普段はいない特別な存在となっており,また,先生や幼児仲間とは違った関わり方をしてくれる人でもあり,日常とは違う雰囲気をもたらしてくれる存在となっていることが分かった。
キーワード:幼児の経験 ふれ合い体験活動 幼児と中学生
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表題 ふれ合い体験時の幼児とのかかわりから引き出された中学生の経験内容 —生徒のナラティブ分析から— (自由論文)
著者 叶内茜・倉持清美
巻号・頁・年月 53巻2号, 151-161, 2015.12.
要旨 本研究の目的は,中学生が幼児とのふれ合い体験時に何を経験し,どのように感じていたのかを明らかにすることである。体験前の自尊感情が低い群のうち,二人の中学生を対象とした。一人は,ふれ合い体験後に自尊感情が向上し,もう一人は低下した生徒である。分析には,ふれ合い体験後に二人の生徒が書いたナラティブを用いた。その結果,自尊感情が低下した生徒は,ネガティブな記述がより多かった。この生徒は,幼児から傷つくことを言われたり,幼児から嫌なことをされたりといった経験をしていた。幼児は,ポジティブな行動もネガティブな行動も取るものである。その行動の意味を理解できるようなふれ合い体験前後の授業が必要とされる。
キーワード:幼児とのふれ合い体験 幼稚園 中学生 自尊感情 家庭科
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表題 気になる子どもの変容を促す問題解決志向性コンサルテーションの効果に関する実践的研究 —「行動の分析&支援シート」の開発と活用— (自由論文)
著者 阿部美穂子
巻号・頁・年月 53巻2号, 162-173, 2015.12.
要旨 本研究は,保育士による協議主体型の問題解決志向性コンサルテーション(PANPSコンサルテーション)が気になる子どもの保育に及ぼす効果を実践事例に基づいて検討することを目的とした。コンサルテーション参加者は,5名の保育士で,彼らは3歳の発達の気になる子どもの問題行動への対応に苦慮していた。
1〜2か月に1回の計6回のコンサルテーションにより,保育士らは,「行動の分析&支援シート」を活用することで,協議しながら自ら支援方法を考案し,また,それを実践することができた。その結果,対象児に適切な行動が獲得されるとともに,問題行動が減少した。
これにより,PANPSコンサルテーションが,保育士にとって,主体的に「気になる子ども」の保育改善を実現するために必要なスキルの獲得を促進できることが示唆された。
キーワード:気になる子ども 巡回相談 保育コンサルテーション 支援計画 保育の専門性向
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表題 「就学支援シート」を用いた特別なニーズのある幼児の移行支援 —移行の時期に着目して— (自由論文)
著者 河口麻希
巻号・頁・年月 53巻2号, 174-184, 2015.12.
要旨 本研究の目的は,特別なニーズのある3名の幼児の移行支援のあり方を明らかにすることである。その際に,就学支援シートの作成・活用過程をもとに移行の時期を移行前期,移行期,移行後期に区分し,移行の時期から移行支援の特徴を検討した。
その結果以下の点が明らかになった。第1に,就学支援シートを用いた移行支援では保育所・幼稚
園と小学校の顔を合わせた連携を促した。第2に,移行の時期を区分することで,各時期の特徴が明
らかになった。第3に,保護者の不安に対して対応する際のかかわりとしては,移行前期から就学に向けて保護者と連携する必要性が示唆された。
キーワード:移行の時期 就学支援シート 特別なニーズのある幼児
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表題 保育現場におけるコンサルテーションの実情と課題の解明 —管理職・ベテラン保育者へのインタビューの質的分析より— (自由論文)
著者 守巧・中野圭子・酒井幸子・矢澤弘美
巻号・頁・年月 53巻2号, 185-193, 2015.12.
要旨 本研究の目的は,幼稚園における保育者側のコンサルテーション参加の実情や課題を明らかにすることである。幼稚園のコンサルテーション参加に関する実情や課題及び保育実践に活用する際の工夫について,コンサルテーション実施に際し影響力がある管理職やベテラン保育者にインタビューを実施し,逐語録を分析した。結果,1)常によりよい保育を望んでいる「園側の実情」,2)専門家による保育文脈に合わせた語りや対等性のある双方向の話し合いを望むなど「コンサルテーションへの希求」,3)運用上の齟齬の明確化によりなされている「双方の連携の模索」,4)巡回相談の実施回数など「コンサルテーションの在り方への示唆」,が得られた。
キーワード:コンサルテーション 幼稚園 質的分析 管理職
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表題 保護者との関係に関する保育者の語りの分析 —経験年数による保護者との関係の捉え方の違いに着目して— (自由論文)
著者 衛藤真規
巻号・頁・年月 53巻2号, 194-205, 2015.12.
要旨 本稿は,保育者と保護者との関係性に,経験年数の長い保育者と短い保育者ではどのような相違が生じるかを,保育者の語りから分析することを目的とした。対象は私立幼稚園の保育者14名,
M-GTAを用いてデータを分析し,勤続年数8年未満と8年以上の2群に分け,保護者の捉え方の違いを比較検討した。結果,保育者の経験年数の増加に伴い保護者に対する語りの内容には違いが表れ,保育者の経験年数に応じて保護者の捉え方に変化があることが明らかとなった。今回の分析には園外の経験として,保育者自身の子育て経験による影響も含まれていたこと,関係性構築には保護者からのアプローチも関係していることから,今後の更なる検討の必要性を提案した。
キーワード:保育者 保護者 関係性 経験年数 捉え方
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表題 保育参加後における父親の語りの縦断的研究 —父親が子どもの園生活にかかわることによる視野の広がり— (自由論文)
著者 宮本知子・藤崎春代
巻号・頁・年月 53巻2号, 206-217, 2015.12.
要旨 本研究の目的は,保育所に入園している子どもを持つ父親が保育参加を経験した後の懇談会での語りを分析することで,父親の子育てに関する意識を把握することである。保育所に通園する子どもを持つ父親に年一回,保育参加を行い,保育参加後に懇談会を実施した。20XX年から20XX+3年に参加した計80名の父親の語りを分析し,父親たちが保育参加を経験したことにより様々な思いを語り,結果,言及対象として<子ども><園(保育所)><自分><妻>が見出された。また彼らの発語内容は,入園年齢で差が見られるものと保育参加経験年数で差が見られるものに分かれた。
キーワード:保育所 保育参加 父親の語り 縦断的研究
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表題 スウェーデンの保育改革にみる就学前教育の動向 —保育制度と「福祉国家」としてのヴィジョンとの関係から— (自由論文)
著者 大野歩
巻号・頁・年月 53巻2号, 220-235, 2015.12.
要旨 本研究では,スウェーデンの保育改革について,特に1972年の幼保一元化から2011年の就学前学校ナショナルカリキュラムの改訂に至るまでの期間に着目し,保育制度と国家体制の関係性の観点から,改革の動向を分析することを目的とする。
検討の結果,スウェーデンは福祉国家として歩む中で,1930年代以降,「民主主義的」で「質の高い」保育を「公的な施設」で提供する方針を一貫して進めてきたと考えられる。その結果,スウェーデンは,保育を人口政策から教育政策へと転換させ,「福祉国家」の基盤となる人的資本を育成するための新しい教育活動を形成するに至ったと捉えられる。
キーワード:保育改革 スウェーデン 動向 保育制度 福祉国家体制
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