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49巻1号

表題 幼保一元化の可能性に関する史的検討 (自由論文)
著者 田澤 薫
巻号・頁・年月 49巻1号, 18-28, 2011.8.
要旨 制度確立の最初期に分離した幼稚園と保育所の制度を統合する計画が進展している。近代以降の日本では,5回にわたり幼保一元化が試行されたが,厚生労働省と文部科学省の間の調整がつかず,いずれも不成功に終わった。今回の幼保一元化に向けた試みも幼稚園と保育所の双方からつよい抵抗を受ける可能性が高いことは,本研究における歴史的分析からも容易に想像される。真の幼保一元化は,幼稚園と保育所の制度の単なる統合を意味するものではない。制度論ではなく,子どもの視点に立った保育の内容から課題を明らかにし解消することが今こそ求められている。
キーワード:幼保一元化 保育所 幼稚園保姆 児童福祉 倉橋惣三 

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表題 遊びの中で見られる幼児の身体接触の意味:身体知の視点から (自由論文)
著者 藤田 清澄
巻号・頁・年月 49巻1号, 29-39, 2011.8.
要旨 幼児が遊びの中で行う身体接触の意味について,塚崎・無藤(2004)が用いた分類を基に3・4・5歳児と縦断的に身体接触を観察し,年齢間の差異を統計的に明示し比較を行った。その結果,5歳児が特に『誘導』や『呼びかけ』といった『中立的』な身体接触を用いているという特徴が明らかとなった。その結果を基に,5歳児の身体接触が生じる前後の文脈を観察し分析することで身体接触を4タイプに分類し考察を行った。結果として,5歳児は身体接触を暗黙的に,しかし巧みに道具的・手段的に用いているといえる。これは身体知としての身体接触に他ならないと示唆される。
キーワード:幼児 身体接触 身体知   

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表題 自己エスノグラフィーによる「保育性」の分析:「語られなかった」保育を枠組みとして (自由論文)
著者 佐藤 智恵
巻号・頁・年月 49巻1号, 40-50, 2011.8.
要旨 本研究の目的は,保育者が持つ「保育性」の様相を明らかにすることである。研究方法は,自己エスノグラフィーの手法を用い,「語られなかった」保育を枠組みとして,自らの保育実践に関する3つの記録物を用いた。なお,本研究における「保育性」とは,自己エスノグラフィーの中で描き出される,保育者特有のものの捉え方や考え方を表すものであると定義をする。分析の結果,1)専門性への迷い,2)無意識下の気づき,3)自己の保育への意味づけ,という「保育性」を描き出していると思われる3点の事象が浮かび上がった。自己エスノグラフィーにより「語られなかった」保育に光をあてることで,不可視的な保育実践の中に存在する「保育性」を描き出すことを可能にした。
キーワード:「語られなかった」保育 自己エスノグラフィー 保育者の「保育性」   

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表題 保育所における高学歴・高齢初出産母子に対する支援:母親と保育者の関係構築を基軸として (自由論文)
著者 小川 晶
巻号・頁・年月 49巻1号, 51-62, 2011.8.
要旨 高学歴・高齢初出産母子の中には,子どもが生まれたことでそれまでの仕事中心の生活の変換を余儀なくされることも多く,そのような家庭への支援には困難を伴うのが常である。増加傾向にある高学歴・高齢初出産母子への支援の難しさを解くことは保育実践上の今日的課題と言えよう。そこで本論文の目的は,高学歴・高齢初出産母子への支援のあり方について一つのモデル構築を試みることである。そのためにここでは,母親との関係構築に困難を伴った筆者自身の母子支援実践過程から保育者と子ども,母親と子ども,保育者と母親の関係性の変容過程を取り出し,エピソード記録を中心とする質的研究の方法をとって分析した。その結果,母親の価値観を変えるためには,子どもがより良く変わるプロセスを可視化して示すことが必要であること。また,社会的志向が高く,職業キャリアを積んでいる女性としての母親への寄り添いが必要であること。さらに,複雑化する双生児の母子関係形成を解かり易く示す必要があることが分かった。
キーワード:保育実践 母子支援 関係構築 愛着形成支援 高学歴・高齢初出産母子 

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表題 社会事業家・生江孝之の保育事業論:家庭改良および隣保改善に焦点をあてて (自由論文)
著者 西小路 勝子
巻号・頁・年月 49巻1号, 6-17, 2011.8.
要旨 本研究は大阪市立愛珠幼稚園に残されていた保育日記と保育記録に基づいて,明治期の保育者の子ども観や保育実践に迫ろうとするものである。子どもたちが好んだ恩物課目から随意工夫・遊嬉の重視への転換等,保育内容と方法の変遷を確認することができた。また,保育記録様式における試行錯誤,保育時間割の検討,教材開発への熱意,子どもの作品への慈しみ等,保育と誠実に向かい合いながら努力を重ねる保姆の姿やその心性を把握した。
キーワード:愛珠幼稚園 明治期 保姆 保育記録 保育内容 

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表題 保育所における病児・病後児保育の必要性:石川県内の保育所でのインタビュー調査を通して (自由論文)
著者 福井 逸子
巻号・頁・年月 49巻1号, 63-72, 2011.8.
要旨 この調査では,石川県内の60か所の保育所において,病児・病後児保育の現状と課題についてインタビュー調査を行った。その結果,石川県内の保育所での実施状況には,地域格差が生じている現状である。しかしながら,今日,農村部においても,祖父母の就労問題や人々の繋がりの希薄さから病児保育の必要性は高まってきている。今後の課題については,医務室の整備,看護師の配置,嘱託医との連携,さらに,「子ども主体の支援」という観点での検証が必要であると考える。
キーワード:保育所 病児保育事業 医務室 看護師 嘱託医 

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表題 高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践:プロジェクト・アプローチを手がかりに (自由論文)
著者 ポーター 倫子
巻号・頁・年月 49巻1号, 73-84, 2011.8.
要旨 この縦断的ケーススタディでは,自閉症児の制限された興味(こだわり)を発展する援助方法としてのプロジェクト・アプローチの有効性を検討することを目的とする。研究対象は,高機能自閉症児である筆者の息子であり,幼少の頃より列車に特別な興味を示してきた。幼児教育者である筆者は,息子が3歳半より列車に関するプロジェクトを家庭保育の中で導入してきた。実践の結果,プロジェクト・アプローチの形態を参考にした3つの方略,(1)ウェブを作成することで興味の対象を計画的に様々な方向へ広げること,(2)熟練した遊び手と関わる経験を提供すること,(3)様々な媒体を通して自分の思いやイメージを表現するドキュメンテーションの機会を与えること,が自閉症児のこだわりに教育的意義を持たせ,遊びのスキルを高める効果的な方法であることが示唆された。
キーワード:自閉症 制限された興味 プロジェクト・アプローチ ウェブ ドキュメンテーション 

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表題 特別なニーズのある子どもの移行支援に関する研究:垂直的・水平的移行を包括したモデルの開発と支援の試み (自由論文)
著者 真鍋 健
巻号・頁・年月 49巻1号, 85-95, 2011.8.
要旨 本研究では,特別な配慮が必要な幼児ならびにその保護者に対する移行支援について具体事例を通して検討を行った。具体的には,水平的・垂直的移行等,多様な移行の種類・形態が存在することを前提に移行支援モデルを開発し,それに基づいた支援を,保育所入所を控えていた1名の幼児に適用した。移行支援モデルは,目的レベル・活動レベル・機関間連携のレベルの3つから構成されるものである。そのような移行支援モデルのもと,特に,本稿では「幼児の新たな環境への適応」を支援の目的とした。事例の結果から,実行可能な支援活動を展開させるためには,支援者や支援機関間の関係性に配慮を行う必要があることが示唆された。また今後移行支援を展開させるにあたって必要な事項について考察を行った。
キーワード:移行 特別なニーズのある幼児とその保護者 移行支援モデル   

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