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50巻1号

表題 障害児通園施設保育士のストレッサー構造に関する研究 (自由論文)
著者 白取 真美・菅野 和恵
巻号・頁・年月 50巻1号, 20-28, 2012.8.
要旨 本研究では,障害児通園施設保育士のストレッサー構造を明らかにすることを目的とした。因子分析の結果,「職務多忙」,「人間関係における問題」,「子どもや保護者への支援の難しさ」,「障害理解の不足や社会的評価の低さ」の4因子が抽出された。「障害理解の不足や社会的評価の低さ」は,社会全体の障害受容の不足がうかがえることから,障害児通園施設ならではのストレッサーであると考えられた。また,経験年数によりストレッサー得点を比較した結果,経験年数10年以上群の保育士の方が,「障害理解への不足や社会的評価の低さ」をより強く認識していることが示され,経験年数により直面する問題や悩みが変化していると考えられた。さらに,障害児通園施設保育士の精神的健康状態は,不良と示される層が59.3%と全体の半数以上を占め,かなり悪化していることが推察された。
キーワード:障害児通園施設 保育士 ストレッサ― 精神的健康 質問紙調査 

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表題 保育カンファレンスにおける談話スタイルとその規定要因 (自由論文)
著者 中坪 史典・秋田 喜代美・増田 時枝・箕輪 潤子・安見 克夫
巻号・頁・年月 50巻1号, 29-40, 2012.8.
要旨 本研究の目的は,保育カンファレンスにおける保育者の談話スタイルと,その規定要因について検討することである。本研究では,4つの幼稚園における22人の保育者を対象に,保育ビデオの場面について話し合ってもらい,談話の内容を分析した。研究の結果,保育者の2つの談話スタイルとその規定要因として,以下が見出された。(1)同僚のことばの相互共有が高いスタイル。このスタイルは,(a)「〜ね」という終助詞,(b)相槌の役割,(c)相手の発言を自分のことばで置き換える行為に規定されていた。(2)同僚のことばの相互共有が低いスタイル。このスタイルは,(a)状況分析,(b)批判的思考,(c)発言者の順序性に関する秩序に規定されていた。
キーワード:保育カンファレンス 保育者 談話スタイル ことばの相互共有  

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表題 教師・保育者を志す学生のワーク・ライフ・バランス意識 (自由論文)
著者 佐藤 和順
巻号・頁・年月 50巻1号, 41-52, 2012.8.
要旨 本研究は,性別役割観が形成される幼稚園・保育所,小学校期に着目し,将来,子どもに関わると予測される教師・保育者を志望する学生を対象にワーク・ライフ・バランス,男女共同参画社会に関する意識調査を行うものである。本研究から得られる知見は,次の通りである。第一に,性別役割観とワーク・ライフ・バランス等の意識には一定の関連性があるといえる。第二に,学生は性別役割観とは関係なく,就職をすれば仕事が自らの生活の中心になると推測している。このことは理想の生活と異なり,理想と現実の生活の間には乖離が存在することを意味している。第三に,ワーク・ライフ・バランス実現のために,根本的にワーク・ライフ・バランスについて十分に理解されていないことが問題としてあげられる。
キーワード:ワーク・ライフ・バランス 男女共同参画社会 性別役割観 教師・保育者を志望する学生 再生産 

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表題 保育士のメンタルヘルスに関する研究:保育士の経験年数に着目して (自由論文)
著者 上村 眞生
巻号・頁・年月 50巻1号, 53-60, 2012.8.
要旨 保育士の業務の多様化や労働環境の問題から,そのメンタルヘルスが危ぶまれている。そこで,保育士は経験年数の違いにより有効と捉えるソーシャルサポートが変化することや,保育における関心が変化することに着目し,経験年数の違いによるメンタルヘルスの状態について検討した。その結果,保育士全体のメンタルヘルスは一般の成人女性に比べ良好とはいえない状態であり,特に新人保育士のメンタルヘルスは,中堅,ベテランの保育士と比べて良くない状態であった。この結果から,今後,保育士の精神的負担軽減のための手立てについて検討する必要があることが明らかとなった。
キーワード:保育士 メンタルヘルス 経験年数   

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表題 ニュージーランドにおける乳幼児教育のセルフ・レビューに関する研究 (自由論文)
著者 鈴木 佐喜子
巻号・頁・年月 50巻1号, 61-71, 2012.8.
要旨 本研究では,ニュージーランドの乳幼児教育セルフ・レビュー・ガイドライン(2006)に焦点を当てて,セルフ・レビューの概念,プロセス,効果的なセルフ・レビューを生み出す要素の検討を行い,セルフ・レビューとは何かを明らかにする。本研究ではまた,ニュージーランドにおけるセルフ・レビュー実践の現状と課題を明らかにする。研究を通じて,セルフ・レビューが情報の収集,分析を行い,改善を行うものであることが明らかになった。セルフ・レビューが反省的,集団的取り組みであることを理解することも重要であり,日本における保育士の自己評価と保育所の自己評価との関係を検討することの必要性が示唆された。
キーワード:乳幼児教育 セルフ・レビュー 自己評価 ガ・アロハエハエ・ファイ・フア:乳幼児教育セルフ・レビュー・ガイドライン ニュージーランド 

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表題 遊びにおける幼児の身振りの様相とその意味:3歳児の関係性と身振りに着目して (自由論文)
著者 海野 摩也子・藤田 清澄
巻号・頁・年月 50巻1号, 6-19, 2012.8.
要旨 本研究では,遊び場面でみられる身振りに着目し,身振りの意味とその働きについて様相を明らかにすることを目的としている。【研究I】として,3歳児,4歳児,5歳児の遊び場面でみられる身振りについて観察し,どのような特徴があるのか量的に分析を行った。その結果,5歳児に自発的身振りが優位に多く,3歳児に身体操作身振りが優位に多いことが明らかになった。次に【研究II】では,【研究I】で多く身振りがみられた女児の集団を追いかけて観察し,質的に分析を行った。その結果,幼児が遊びの中で表す身振りには,(1)自分の中に生まれた感情を他者に伝える働き(2)自分の身振りに対する他者の反応を探る働き(3)自己と他者との間でイメージを双方向的に共有していく働きの3つの働きが存在することが明らかになった。また,この3つの働きの中で,(2)と(3)の身振りに関しては,子ども同士の関係性のあり方が身振りの【成立】【不成立】の要因となることが考えられた。よって,幼児の遊びにおいて表れる身振りは,その身振りを行う幼児とその対象となる幼児との関係性のあり方に強い影響を受けることが示唆された。
キーワード:3歳児 身振り 関係性   

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