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50巻2号

表題 幼少期の栽培体験と親の養育態度との関係:女子大学生と園児の母親の場合 (自由論文)
著者 山本 俊光
巻号・頁・年月 50巻2号, 108-115, 2012.12.
要旨 本研究では,幼少期の植物の栽培体験と親の養育態度との関係を明らかにすることを目的とし,2008年5月に5か所の四年制大学の女子264名,および同年12月に園児の母親227名についてアンケート調査を行った。栽培を多く体験した学生および母親のグループでは,受容され社会教育に参加した人が多かった。親の態度をクラスター分析で「受容された」,「干渉された」,「受容も干渉も大きくない」という三つのグループに分けたところ,どのグループも栽培体験の多い方がより受容され社会教育に参加した者が多く,とくに「受容された」グループではその傾向が顕著であった。栽培体験の多少は,親の態度に影響を受けることが示唆された。
キーワード:幼少期 植物の栽培経験 親の養育態度   

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表題 特別な支援が必要な子どもの保育における保育士の困り感の変容プロセス (自由論文)
著者 木曽 陽子
巻号・頁・年月 50巻2号, 116-128, 2012.12.
要旨 本研究は,特別な支援が必要な子どもとの関係の中で,保育士が抱く困り感の軽減に焦点を当て,保育士の保育の変容プロセスを明らかにすることを目的とした。公立保育所の保育士5名に半構造化面接を行い,得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した。その結果,保育士の困り感は子どもの問題の肥大化により蓄積されていくものの,保育士が保育を子どもに合わせることで子どもの問題が縮小し,困り感が軽減していくプロセスが明らかになった。保育を子どもに合わせるためには,子どもの問題行動の意味を理解することや,個と集団のダイナミズムを踏まえた保育が必要であった。さらに,保育士自身が困り感を抱くことに対して罪障感を持っていることも示された。
キーワード:特別な支援が必要な子ども 保育士 困り感 変容プロセス 質的研究 

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表題 集団保育の食事場面における中国の保育者の関わり方:日本との比較から (自由論文)
著者 張 静・倉持 清美
巻号・頁・年月 50巻2号, 129-140, 2012.12.
要旨 中国では一日3食とも集団保育の中で食べる子どもが増え,食事場面における集団保育が担う役割は大きい。現在の中国の幼児教育の課題である人と関わる力を,食事場を通して子どもたちに身につけさせることができると考える。そのために,「食育」という概念を持つ日本の集団保育の食事場面と比較し,中国の食事場面の特徴を明らかにし,課題について検討することを目的とした。その結果,中国の保育者は,食事場面にコミュニケーションの役割を見出していないことがわかった。これは,中国の古い文化に関連すると考える。しかし,人と関わる力を身につけ,子どもたちの生活をより豊かにするためにも,伝統的な文化を見直さないといけないと考察した。
キーワード:幼児教育 食育 日中比較 食事場面 集団保育 

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表題 模倣された子どもにもたらされる身体による模倣の機能と役割 (自由論文)
著者 鈴木 裕子
巻号・頁・年月 50巻2号, 141-153, 2012.12.
要旨 本研究では,模倣された子どもに着目して,身体による模倣が,子どもたちの相互行為にもたらす機能と役割を観察事例の解釈によって考察した。その結果,模倣された子どもたちにもたらされる機能は,以下の5つに分類された。i.他者とかかわることの端緒が得られるii.他者の行為に気づき他者のイメージを認めて新たな行為が生まれるiii.自己の行為のイメージに気づき行為が自覚的になるiv.自己の行為のイメージに気づき他者とのかかわりが広がるv.自己が肯定され他者に対しての直接的な行為が生まれる模倣されることは,他者からの受容,他者からの投げかけや認識となり,他者との様々な共同的な行為への手がかりとなる。子どもにとって,他者理解を通した自己理解が促され自分というものが他者によって成り立つという認識を促進させる役割を持つことが認められた。
キーワード:模倣された子ども 身体的なコミュニケーション 相互行為 自己理解 他者理解 

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表題 保育者の語りに表現される省察の質 (自由論文)
著者 吉村 香
巻号・頁・年月 50巻2号, 154-164, 2012.12.
要旨 本研究は,保育者が保育場面の不可視な背景をどのように省察しているかを,語りという表現方法から析出することを目的とした。保育観察と語りの聞き取りを長期間実施し,保育者の語りには保育場面の背景が含まれていることを見出した。保育者は,多様な意味を包含し得る保育ジャーゴンに頼らず,自分の納得のいくことばを模索しつつ語っていた。保育者が自分のことばで保育を語ることにより,保育者はこれまでの保育の文脈を確かな文脈として意識化することができる。保育記録に背景が描きにくいと感じている保育者に,語りという方法論が新たな実践研究の方途を開くことが期待できるだろう。
キーワード:省察 語り 場面の背景 保育者自身のことば  

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表題 幼稚園における絵本の読み聞かせの構成および保育者の動作・発話が幼児の発話に及ぼす影響 (自由論文)
著者 並木 真理子
巻号・頁・年月 50巻2号, 165-179, 2012.12.
要旨 本研究の目的は,幼稚園の入園年齢のクラスにおいて,絵本の読み聞かせの構成や保育者の動作および発話が幼児の発話にどのように影響しているのかを検討することであった。その結果,(1)幼児が安定して絵本に集中できる環境(2)幼児のイメージを深めるための登場人物の感情や絵の描写についての保育者の発話や間の取り方,(3)読後における幼児の気づきや遊びの情報化が重要であることが示唆された。
キーワード:保育者の動作 保育者の発話 幼児の発話 幼稚園の入園年齢クラス 読み聞かせの構成 

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表題 家庭内暴力による被害児への支援:あそびの場を通しての実践 (自由論文)
著者 熊谷 節子
巻号・頁・年月 50巻2号, 181-191, 2012.12.
要旨 本研究は,家庭内暴力の被害者である子どもに安心安全な場所と時間を提供し,「あそびの場」を通して,子どもの成長・母子の安定とその関係を良好にする援助方法を探究するものである。家庭内暴力の被害である子どもは,心身ともに傷つき人との関係が不健康状態である。彼らに遊びを通しての援助を実施する。「あそびの場」による子どもの遊びへの参加度やその変化及び,援助方法を通して母子双方の安定や関係に変化が見られる。あそびの場は,被害母子への一つの援助であり,退所後の支援の場である。新たな児童福祉政策の一つとして,被害児への援助とその援助技術を求めていきたい。
キーワード:安全安心な場所の提供 遊びの変化 ソーシャルワークの視点   

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表題 保育の質に関する保育士の意識の実態:A市内における保育士へのアンケート調査を通して (自由論文)
著者 本間 栄治
巻号・頁・年月 50巻2号, 192-201, 2012.12.
要旨 近年,保育制度の変化等に伴い保育の『質』が問われるようになってきたが,当事者である現場の保育士が保育の『質』をどう捉えているのかは十分な検討がなされていない。そこで本研究では,現場の保育士を対象に,彼らが保育の『質』をどう捉えているのか,何がその捉え方に影響を及ぼしているのか,保育の『質』に不安を感じているか等について実態調査を行った。その結果,保育の『質』は「保育内容・カリキュラム」「地域との関係」「職員の資質」「園児と保護者の実態」「職員数」「園児数」「職員間の連携・研修」という7つのキーワード:に集約できることや,「気になる子の増加」が,多くの保育士の保育の『質』の判断基準に影響していることが確認できた。また,現在の保育の『質』を不安に感じている保育士は6割存在した。
キーワード:保育の質 保育士 保育の質の構成要素 保育園実態調査  

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表題 少子化,過疎化が地方小規模自治体の保育者の成長に与える影響 (自由論文)
著者 香曽我部 琢
巻号・頁・年月 50巻2号, 202-215, 2012.12.
要旨 本研究では,少子化,過疎化が急激に進む地方小規模自治体における保育者の成長を,保育者アイデンティティ形成の視点から明らかにし,その特徴について検討する。そして,少子化,過疎化が急激に進む地方自治体の保育者の現職教育の在り方について新たな視座を示唆する。具体的には,熟達した保育者に対して半構造化インタビューを行い,GTAによって分析を行った。その結果,保育者アイデンティティの形成過程において,少子化によって施設の規模の差異が生じ,その差異や差異のある施設間を異動するによって,さまざまな問題や良い効果が生み出されていることが示された。そして,これらの問題に対して,保育者は,異動を繰り返し(異動サイクル),その度に新たな気づきを得て,理想とする保育実践を構想し,葛藤することを保育実践において繰り返す(実践サイクル)中で,保育所や研究会などの公的な組織ではない,保育者間の個人的なつながり(保育実践コミュニティ)を生み出し,問題に対応していることを明らかにした。そこで,本研究では,施設の規模に応じた,現職教育の研修内容や体制の在り方について例示を行った。
キーワード:保育実践コミュニティ 異動 少子化 グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)  

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表題 1〜2歳児の仲間と物とのかかわり:「仲間と同じ物に関心をもつ」行為に着目して (自由論文)
著者 齊藤 多江子
巻号・頁・年月 50巻2号, 96-107, 2012.12.
要旨 本研究は,1〜2歳児が,保育の場での自然発生的な遊び場面において「仲間と共通の物に関心をもつ」という行為に注目し,仲間と共通の物に関心を向けた際の物への働きかけ方を詳細に分析することによって,仲間と物との結びつきについて明らかにすることを目的とする。筆者は,保育室において仲間と遊んでいる場面を,1年間月1回程度の観察を行った。観察と詳細な分析によって,次のような結果が得られた。1)1〜2歳児では,「仲間が使っている物」への関心が高い。2)それが物を介する仲間とのかかわりにつながっていると考えられる。3)仲間と同じ物(類似物)をもつ,同じ場を共有すること自体が,仲間とのかかわりを結びつけている可能性も示唆される。
キーワード:仲間関係 1~2歳児 物 遊び 観察 

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