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51巻1号

表題 新任保育者の危機と専門的成長:省察のプロセスに着目して (自由論文)
著者 谷川 夏実
巻号・頁・年月 51巻1号, 105-116, 2013.8.
要旨 本研究の目的は,新任保育者の危機を通じた専門的成長について,省察を手がかりとして明らかにすることである。省察をとらえる視点として<(1)問題状況のとらえ方の変容><(2)実践に取り組む姿勢の変容>に着目し,幼稚園教諭2名の,1年余りに渡る継続的なインタビューデータを分析した結果,それぞれの新任保育者に固有のリアリティ・ショックとそれに伴う省察がみられ,省察を通じた専門的成長を読み取ることができた。この結果から,新任保育者が省察によって問題状況を解釈する枠組みを獲得し,それに基づき実践に取り組む姿勢に変容がみられるまでには,一定の期間と機会を与えられることが必要だということが示唆された。
キーワード:新任保育者 危機 リアリティ・ショック 専門的成長 省察 

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表題 保育者の転機の語りにおける自己形成プロセス:展望の形成とその共有化に着目して (自由論文)
著者 香曽我部 琢
巻号・頁・年月 51巻1号, 117-130, 2013.8.
要旨 本研究では,保育者が自らの転機についての語りから,転機の要因や転機における保育者の自己の変容について明らかにすることで,現代社会において保育者に求められる専門性について検討を行う。具体的には,まず,保育者の成長に関連性が強い保育者効力感を縦軸としたライフラインを記入し,それを刺激素材として保育者の転機の時期やその要因,プロセスについて半構造化インタビューを実施する。そして,そこで得た言語データをSCAT(StepsforCodingandTheorization)を用いて分析を行う。その結果,転機の要因として3つのカテゴリーと異動との関連性が示された。そして,保育者が転機をi問題認識,ii省察,iii将来の展望,iv困難な状況の発生,v他者との相互作用の活性化,vi他者との実感と展望の共有,以上6つの段階のプロセスとして認識していることが明らかとなり,他の保育者と実践コミュニティを形成し,将来の展望を共有することの重要性を示した。
キーワード:転機 SCAT 展望 実践コミュニティ  

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表題 明治期の幼稚園教育と「童話」:ヘルバルト派教育学の影響下で (自由論文)
著者 北川 公美子
巻号・頁・年月 51巻1号, 17-25, 2013.8.
要旨 さまざまな教育思想が流布した小学校教育と比べ,明治期の幼稚園教育は,一貫してフレーベルの思想のもとに行われていたため,両者の教育内容には,かなり隔たりがあるようにみえる。しかし,明治期の教育思想の中で一大ブームを巻き起こしたヘルバルト派教育学の視点からみると,どちらも,「品性の陶冶」を教育の目的とし,その教材に「童話」を取り入れており,明治期の幼稚園教育と小学校教育は,その根本において強い関係性があったと考えられる。本論では,教育関係法令から小学校教育の方向性と幼稚園教育との関係性を明らかにするとともに「童話」への意識を通して,小学校教育との関係性における幼稚園教育の位置づけについて考察した。
キーワード:明治期 幼稚園教育 小学校教育 ヘルバルト派教育学 童話 

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表題 戦前日本における託児所保姆の養成・資格・待遇:幼稚園保姆との比較を中心に (自由論文)
著者 佐野 友恵
巻号・頁・年月 51巻1号, 26-35, 2013.8.
要旨 本研究は,戦前日本における託児所保姆の養成・資格・待遇の状況をあきらかにするものである。戦前日本における託児所は公的な規程のない状況で運営されており,当然,そこで働く保姆の資格規程も存在しなかった。そのような状況下において,幼稚園保姆の資格を有する者が託児所で働いたり,幼稚園保姆の養成校で託児所保姆に必要な知識や技術を授ける事例もあったが,保育に関する知識や技術を有さない者も保育に従事していた。そこで,託児所で働く者のために,数日間の短い講習が行われていた。養成(講習会)の事例や,託児所保姆の待遇等を幼稚園保姆のそれと比較検討しながら,公的規程がなかったが故に幼稚園とは異なる状況におかれた託児所保姆の実態を託児所のおかれた社会的な背景とあわせて明らかにした。
キーワード:託児所保姆の養成・資格・待遇 託児所保姆 幼稚園保姆   

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表題 2-3歳児の保育集団での食事場面における対話のあり方の変化:伝え合う事例における応答性・話題の展開に着目して (自由論文)
著者 淀川 裕美
巻号・頁・年月 51巻1号, 36-49, 2013.8.
要旨 保育所の食事場面で,2-3歳児が伝え合い応答し合う場面について,集団での対話のあり方の変化を検討した。6〜11月の32事例を量的・質的に分析し,以下の示唆が得られた。(1)「他児の応答を引き出しやすい応答」の使用頻度は,自他の同異に関する情報追加が減り,それ以外の情報追加が増えた。質問はつねに1割程度であった。(2)終助詞「よ」「の」の使用が減り,終助詞「ね」・間投助詞「ね」「さ」の使用が増えたことから,中期・後期には他児の共感を求め,また,対話を続けていたことが示された。(3)具体的な事例分析から,話題が深まり,展開するようになった。また,他児と意見が対立した際,妥協案を提示したり,自分の気持ちを調整したりするようになった。
キーワード:2-3歳児同士の対話 応答性 終動詞と間投助詞 話題の展開 質的分析 

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表題 3歳児の積み木遊びについて:行為と構造の変化に着目して (自由論文)
著者 宮田 まり子
巻号・頁・年月 51巻1号, 50-60, 2013.8.
要旨 本研究は,幼稚園の保育場面を観察し,大型積み木で遊ぶ3歳児の行為と構造の変化から,積み木遊びにおいて何を体験し,他者とどのように協働していくのか,その過程を明らかにする。積み木は,フレーベルの恩物からの流れを持ち,幼稚園創設以来多くの園に設置されているが,積み木遊びの固有性に関する研究は数少なく,実際の保育場面における積み木遊びについてはあまり述べられてこなかった。本研究では,A幼稚園3歳児の1年間(内68日間)を観察し,積み木遊びで見られた特徴的な行為に着目し,事例を作成した。分析の結果,活動の質の変化から,(1)目的の出現と相違の時期,(2)イメージの相違と共有化に向かう時期,(3)協働の時期の3つの時期に分けられた。
キーワード:積み木 遊び 3歳児 イメージの共有 協働 

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表題 明治後期の幼稚園における中心統合主義カリキュラムの受容・実践内容に関する研究:広島女学校附属幼稚園師範科生徒の保育案ノートを手がかりとして (自由論文)
著者 金子 嘉秀
巻号・頁・年月 51巻1号, 6-16, 2013.8.
要旨 明治後期の広島女学校附属幼稚園の実践には,当時から幼児教育関係者の間で注目が集まっていた。本稿では,同幼稚園師範科生徒・松下トクの1906・1907年度の保育案ノートを用い,当時の中心統合法的な保育方法論を解明するとともに,フレーベル主義・子ども中心主義との位置づけの相対化を試みた。結果,1907年度には中心統合主義的なカリキュラムの日本化・地域社会化が図られていたこと,描画・貼画・塗り絵の使い分けにより子どもにとっての作画の難易の調整が図られた点で「子ども中心主義」を受容する素地が形成されつつあったといえること,恩物についても「教義的な利用」よりも「便宜的な利用」が主であったこと,の三点が明らかとなった。
キーワード:幼稚園史 明治期 中心統合法 キリスト教主義幼稚園  

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表題 幼稚園4歳児クラスにおける自己調整能力の発達過程:担任としての1年間のエピソード記録からの検討 (自由論文)
著者 利根川 彰博
巻号・頁・年月 51巻1号, 61-72, 2013.8.
要旨 本研究では,1人の対象児を中心に4歳児クラスの1年間を分析し,幼児の自己調整能力の発達の過程を描き出し,検討することを目的とした。エピソードの分析の結果,1人の幼児が他者視点の理解を進め,自己調整能力をより発達させていく具体的な過程が描き出された。そして,その過程には"対立しつつ支えてくれる他者"のかかわりがあることが示された。また,「かかわりの歴史」「クラス規範の創出と共有」「集団の一員としての理解」を特徴とする4歳児クラスの集団化過程が影響している可能性が示唆された。
キーワード:4歳児 自己調整能力 クラスの集団化過程 対立しつつ支える他者 いざこざ 

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表題 幼稚園3歳児の登園場面における母親の対児行動 (自由論文)
著者 権田 あずさ・今川 真治
巻号・頁・年月 51巻1号, 73-82, 2013.8.
要旨 本研究は,幼稚園という集団の場に初めて預けられる子どもに対して,母親が愛情表出を始めとする対児行動をどのように表出し,子どもを幼稚園へ送り出しているのかを,母子の分離場面となる幼稚園の登園場面を観察することによって明らかにすることを目的とした。(1)母親が登園場面で最も表出させた対児行動は世話行動であった。(2)母親は,登園してすぐの場面により多くの世話行動を表出し,子どもとの分離直前の場面に,より多くの愛情表出行動を表出した。(3)女児の母親は,男児の母親よりも,子どもと分離する直前に,多くの愛情表出行動と分離時に特有の行動を示した。(4)いずれの対児行動も,子どもが第1子であるか,子どもの月齢が小さい場合により多く表出される傾向にあった。
キーワード:登校場面 3歳児 母親の世話行動 愛情表出 行動分析 

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表題 保護者とのかかわりに関する認識と保育者の感情労働:雇用形態による多母集団同時分析から (自由論文)
著者 神谷 哲司
巻号・頁・年月 51巻1号, 83-93, 2013.8.
要旨 近年,保護者対応のニーズが増加している中,本研究では,保護者に対する感情労働に着目し,親とのかかわりにおける態度やコミュニケーションが保育者の感情労働とどのように関連しているかについて,雇用形態ごとに検討することを目的とした。422名の公立保育所保育士から質問紙が回収された。結果,非正規職員は対応困難感が直接的に感情労働に影響していたが,正規職員では,両者の関連に親に対する対応の配慮が媒介しており,正規の保育者が自らの保護者対応における感情労働を意図的,省察的に行っていることが示唆された。それらの結果を踏まえ,保育者の感情労働について,職場のあり方についても吟味する必要があることが議論された。
キーワード:感情労働 保育者 保護者 家庭支援 雇用形態 

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表題 母親自身の語りにみる「ママ友」関係の特徴:相手との親しさの違いに注目して (自由論文)
著者 實川 慎子・砂上 史子
巻号・頁・年月 51巻1号, 94-104, 2013.8.
要旨 本研究の目的は,専業主婦の母親が,ママ友との人間関係をどのように捉えているのかを明らかにすることである。本研究では,専業主婦の母親9名にインタビューを行い,M-GTAを用いて分析した。その結果,母親は相手との関係を,(1)母親自身の自己における「個としての自分」と「親役割を担う自分」の違い,(2)相手との親しさの度合いの違い,(3)相手との同質感の高低によって区別していた。
キーワード:ママ友 母親の自己 親しさ 同質感  

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