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51巻2号

表題 保育における子どもの「学び」に関する検討:シェーファー(Schafer, G. E.)の自己形成論としてのBildung観に着目して (自由論文)
著者 中西 さやか
巻号・頁・年月 51巻2号, 154-162, 2013.12.
要旨 本研究の目的は,保育における子どもの「学び」を捉える視点を生成するために,ドイツにおける幼児期の子どものBildungに関する議論について検討することである。本研究では,特にシェーファーによる「自己形成」としてのBildung論について検討した。シェーファーのBildung論は,保育における子どもの「学び」について以下のような示唆を有していた。(1)子どもの思考や内面的な活動を出発点として「学び」を考えている点。(2)子どもの感覚,感情,想像力,ファンタジーなどが「世界理解の方法」として位置づけられている点の2点である。
キーワード:学び ドイツの保育 Bildung 自己形成 シェーファー 

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表題 幼児の共同的造形遊びにおけるモチーフの生成過程の分析:幼児の注視方向に着目して (自由論文)
著者 佐川 早季子
巻号・頁・年月 51巻2号, 163-175, 2013.12.
要旨 本研究は,幼児の共同的造形遊びにおけるモチーフ生成のプロセスを明らかにすることを目的とする。幼稚園の4・5歳児クラスを半年間参与観察し,幼児がモチーフを生み出すプロセスを,言語的・非言語的やりとりの両面に着目して分析した。注視方向に着目した分析から,幼児が遊び相手の制作物を注視して制作方法に関する情報を取得し自分のモチーフをつくり出す過程で,注意がいったん造形遊びから逸脱する行動が見られた。これは,他児のアイデアを自分のものに変えるために必要な過程であることが示唆される。そして,交互に行われるモチーフの言語化が造形遊びに新しいアイデアをもたらす提案となり,造形遊びを協働的かつ即興的に展開させていた。
キーワード:造形遊び モチーフ 注視方向 微視発声的分析 4・5歳児 

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 幼児の固定遊具遊びにおけるルールの形成と変容に関する研究 (自由論文)
著者 金子 嘉秀・境 愛一郎・七木田 敦
巻号・頁・年月 51巻2号, 176-186, 2013.12.
要旨 従来の幼稚園の園庭に設置された固定遊具に関する研究は,保育者の環境設定の意図を重視し,これを読み解くものが多く,環境の利用者である幼児自身の自発的な遊具の解釈やルール形成・変容について,十分に考慮された研究はなされてこなかった。本研究では,A幼稚園に設置された新奇な固定遊具「タイヤブランコ」における幼児の遊びに着目し,ルール形成や変容が行われている場面を取り上げ検討した。結果以下の点が明らかとなった。幼児らは試行錯誤の結果としてタイヤブランコ固有の物理条件を読み取り,遊びに活かしていた。また,「試行錯誤」に加えて「自由な発話」が許され,「ルールが併存し得る」環境であることが,遊び方ルールのダイナミックな変容の契機として重要であることがわかった。
キーワード:幼稚園 固定遊具 遊び方 相互作用  

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 幼稚園4歳児の対人葛藤場面における協同的解決:非当事者の幼児による介入に着目して (自由論文)
著者 松原 未季・本山 方子
巻号・頁・年月 51巻2号, 187-198, 2013.12.
要旨 本研究においては,幼稚園4歳児は,非当事者として,他児に生じた対人葛藤にどのように介入し,協同的解決が図られるのかということを明らかにした。その手法として,幼稚園において4歳児の自由遊び場面とおやつ場面を中心にフィールド観察を行い,エピソード分析を行った。その結果,教師が葛藤を解決した場合,幼児は葛藤を注視するという行動を示した。この行動は,幼児の葛藤への気付きを示唆している。次に,非当事者の幼児と教師が葛藤に直接介入した場合,教師に葛藤時の状況を説明する,当事者の幼児に注意する,といった行動が見られた。非当事者の幼児のみが介入した場合には,加勢が仲裁より多く観察された。加勢は片方の幼児にとって有利な介入であったため,葛藤は必ずしも解決へと至らなかった。それに対して,仲裁は葛藤を解決へと導ける,公平で効果的な介入であった。一部ではあるが,葛藤を仲裁できる幼児が存在した。これらの幼児の介入法を模倣して葛藤に介入しようとする幼児も存在するため,他児の葛藤を仲裁できる幼児がクラスに与える影響は大きい,と考えられる。
キーワード:対人葛藤 介入 4歳児 非当事者の幼児  

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 発達障害の傾向がある子どもと保育士のバーンアウトの関係:質問紙調査より (自由論文)
著者 木曽 陽子
巻号・頁・年月 51巻2号, 199-210, 2013.12.
要旨 本研究では,発達障害の傾向がある子どもの人数や発達障害に関する知識の程度と保育士のバーンアウトとの関係を明らかにすることを目的とした。84か所の保育所(園)に質問紙調査を行い,607名の保育士の回答を得た。バーンアウトを従属変数とした重回帰分析の結果,発達障害の傾向がある子どもの数と保育士の発達障害に関する知識,クラスの担任保育士数が保育士のバーンアウトに関係していることが明らかとなった。一方,診断を受けている障害児の数は保育士のバーンアウトと関係していなかった。そのため,未診断であるがゆえの困難さが保育士のバーンアウトに影響していることが示唆された。また,保育士自身が発達障害の知識をもつことや保育士の人手不足を改善することが,保育士のバーンアウトを防ぐ可能性がみられた。
キーワード:発達障害の傾向がある子ども 保育士 バーンアウト 発達障害に関する知識 量的研究 

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 保育所の給食場面における保育士の働きかけの特質 (自由論文)
著者 伊藤 優
巻号・頁・年月 51巻2号, 211-222, 2013.12.
要旨 本研究の目的は,保育所の給食場面において保育士が意識的に行おうとしている働きかけと,実際の働きかけ双方を検討し,保育所の給食場面における保育士の働きかけの特質を明らかにすることである。結果,保育士が給食場面で意識的に行おうと考え,働きかけても,実際の給食場面においては理想通りにはいかない状況が見出された。その要因となる保育所の給食場面における保育士の働きかけの特質として,(1)子ども個人の身体的・生理的嗜好に反する働きかけを行い,子どもに心理的負担を与えてしまう危険が内在すること,(2)子どもが「食べる」と「楽しむ」,そして「学ぶ」と必ずしも両立しない複数の行為を同時並行的にできるよう配慮しないといけない難しさを含んでいることがあげられた。
キーワード:給食場面 保育士 保育所 働きかけの特質  

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 3歳児の子ども集団の「規範意識の芽生え」における保育者の役割:非言語的応答関係による「居場所」生成 (自由論文)
著者 松永 愛子・大岩 みちの・岸本 美紀・山田 悠莉
巻号・頁・年月 51巻2号, 223-234, 2013.12.
要旨 本研究の目的は,非言語的応答関係に注目しながら,3歳児の規範意識芽生えとは何か,また子ども集団の規範意識の生成過程における保育者の役割は何かを明らかにすることである。そのために,保育者Aの保育実践を1年間観察し,ビデオ記録をした。また,保育者の記述した保育記録を収集した。これらの記録から事例を記述し,「身体的同調」及び「ノリ」の概念を用いて分析を行った。その結果,第一に保育者は「身体的同調」が6つの時期を経て子ども集団に広がるようにしていた。そして,最終的には「身体的同調」が積み重ねられ子ども集団の行動を規定する「ノリ」となり,子どもたちがお互いを肯定的に受け止めあう「居場所」が生成する過程が見出された。また,「居場所」では,子どもたちが自発的に秩序ある行動を取るようになる様子が示された。第二に,「居場所」生成の条件として,保育者が子どもを肯定的に捉える態度が必要と考えられた。その肯定的な態度が「身体的同調」によって子ども同士の間に広がり,「居場所」生成が可能となることが指摘された。これらのことから,幼児教育における「幼児期の規範意識の芽生え」とは,子どもの「居場所」生成を意味すると考えられた。
キーワード:子ども集団 非言語的応答関係 規範意識 居場所 事例研究 

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 集団保育の片付け場面における保育者の対応 (自由論文)
著者 永瀬 祐美子・倉持 清美
巻号・頁・年月 51巻2号, 235-244, 2013.12.
要旨 本研究では,集団保育における一斉的な片付け場面に着目し,子どもたちの様々な状況に対し保育者がどのように対応しているのかを検討した。3歳児クラス28名,5歳児クラス26名と担任保育者を対象とした。分析の結果,保育者は年齢クラスによって発話や対応が異なっていた。3歳児クラスでは片付けていない子どもへの声掛けが多く,5歳児クラスでは片付けている子どもへの声掛けが多かった。また,3歳児クラスでは,子どもの片付け前までの遊びに対する思いを受け止め区切りを付けさせ,片付けが続くように手順を教えていた。5歳児クラスでは,子どもの遊びがひと段落するまで待ち,子ども自身が遊びを終了させて片付けに切り換えられるようにしていた。
キーワード:片付け場面 保育者のかかわり 幼稚園 3歳児 5歳児 

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 学童保育における保育者は子ども同士をどのようにつなげようとしているのか?:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いた保育者の語り分析から (自由論文)
著者 林 幹士
巻号・頁・年月 51巻2号, 245-256, 2013.12.
要旨 本研究の目的は,学童保育における保育者が子ども同士をどのようにつなげようとしているのかを明らかにすることである。インタビューにより得られた15名の保育者の語りを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果,保育者は<遊びを通して>や’取り組みを通して’を含めた日々の保育において,<承認を媒介として>・<相互理解促進支援>。’保護者と保護者をつなぐ’ことで,子ども同士をつなげようとしていた。保育者は,これらの行為を往還的・複合的に繰り返し実践していくことで子ども同士をつなげようとしていたことがわかった。子ども同士をつなげる有用な具体的な視点として,1)子どものいまある力でできていることを承認するという意識を持つ,2)遊び・取り組みをゆるやかにつながる先となるように工夫していく,3)保育中の子ども同士の関係性を保護者へ積極的に発信していく,4)子ども同士のかかわりをつくりだすようにかかわり方の度合いを変化させる,の4点について示した。
キーワード:学童保育 保育者 つながり 語り 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ 

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 幼稚園での異年齢交流型子育て支援プログラムにおける未就園児親子と在園児との関わり:行動観察記録のM-GTAによる質的分析 (自由論文)
著者 田中 文昭・戸田 有一・横川 和章
巻号・頁・年月 51巻2号, 257-269, 2013.12.
要旨 本研究では,未就園児親子と幼稚園年長児との異年齢交流型子育て支援プログラム(以下,本プログラム)での未就園児保護者の個々の行動から保護者全体の意識の変容過程を推察し,本プログラムの意義を考えることを目的にした。未就園児がペアとなって幼稚園年長児と関わる際の未就園児保護者の行動観察データを収集し,M-GTAを用いて分析した。その結果図から,幼稚園年長児との関わりにより生起する未就園児保護者の感情の反応が浮き彫りになり,本プログラムへの継続参加や未就園児保護者自身の発達観との関連で考察を深め,本プログラムの改善への方向性が示唆され,幼稚園での子育て支援の今後のあり方と課題が浮き彫りになった。
キーワード:子育て支援 幼稚園 行動観察 M-GTA 異年齢交流 

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